ケアマネジメントの導入

市民間の介護ニーズをいかにして解放するかということも、介護保険のポイントのひとつであった。それは財源を租税方式とするか社会保険方式とするか、ということより、はるかに重大な問題であった。一家心中に追いこまれる前に、家族が、そしてできれば高齢者自身が、サービスを社会に「気軽に請求」できるシステムをつくること。そのためには、負担と給付が分かりやすい形で示される必要がある。財源に租税を半分も入れていて、あえてこれを社会保険「方式」で運営することの最大の意義はそこにあったのである。


先にも述べたが、医療では診療所と病院というところに、すべてのサービスが集中しているが、福祉ではかなり広い地域に各種の事業所が散在していて、サービスがIヵ所に集まっていないので、個人ではこのような多様なサービスを利用することが難しい。八十歳を越えた高齢者が主たる利用者であることを考えれば、その困難さは容易にイメージできよう。アセスメント(一人一人の利用者がどのようなサービスを必要としているかの調査。医療でいえば問診、診察、検査、相談。介護でいえばニーズ評価)からケア(治療、介護)にいたる一連のプロセスは、両者とも同じである。しかし医療ではそのプロセスが病院または診療所という施設の内部で一体化しており、利用者にとっては便利であるとともに、それぞれの過程の区別がつかない。


しかし各種の医療と福祉サービスを統合化した介護保険では、要介護認定、ケアプラン作成、ケアの実行、というプロセスが明確に区別されるのに伴って、サービスに関わる資源も三つの過程に分けて配置されている。しかし、利用者にとって、そのしくみの必然性はなかなか理解し難いものであるだろう。そのうえ各種のサービスがいったいどんなものか、たとえばデイケアとはなにか、デイサービスとはどう違うのか、といったイメージすら持っていない利用者がほとんどである。そこで専門的知識と経験のある助言者(介護支援専門員ケアマネージャーを創設し、その助言により、利用者本人の自己決定を基本として、複数のニーズに対応する複数のサービスを、適切に組み合わせるケアプランの作成が不可欠となる。


それに加えて、これも先に述べたことであるが、医療の場合は、サービス内容の選択において、医学という世界的に確立された学問としての権威が、中立的な立場で大きな影響力を持つが、介護の世界では、サービス利用者本人(しばしば家族も含まれる)の自己決定が、格段に大きな比重を占めるということがある。このような条件下では、これまでの福祉の世界における、使えるサービスをできるだけ多くかき集めるというやり方ではなく、「自立支援」を基本的な目標として、それを実現するために過不足ないサービスを「出し入れ」するという、調整的な利用者との合意形成の手法が必要になる。それがケアマネジメントである。


ケアマネジメントとは、老人保健福祉審議会での公式的な定義としては「ケアを必要とする人が、常にそのニーズに合致したサービスを受けられる一連の活動」、要するにサービス利用者にとっての「ケアサービスの統合化」である。介護保険の利用においては、被保険者のサービスを受ける権利の確認行為としての「要介護認定」と、一人一人の利用者の個性や要望に、家族もふくめた環境条件を考慮したケアプラン(介護サービス計画)作成というふたつの段階が設定されている。要介護認定は全国統一の方式が義務化されるが、ケアプラン作成は個別性、地域性などを十分に取り入れたものであるべきとして、まったく現場の自由裁量に委ねられている。


— posted by wgft at 03:55 pm