配転命令権の根拠

他方、職能資格等級の引下げとしての降格は、基本給である職能給の引下げ、すなわち賃金減額を意味するものですし、職能資格制度は、経験に基づいて能力が蓄積されるという発想で運用されることが多いことを反映して、裁判例は、職能資格等級を引き下げるには、就業規則などにおいて、それが可能である旨の明確な根拠規定があること、また、その規定の定める降格理由に該当することが必要であるとしています。最後に、職務等級制度のもとで、職務の変更に伴って職務等級を引き下げる措置は、最近になって紛争事例が増えてきていますが、裁判例としては判断枠組みがまだ固まっていません。職務の変更という点では、配転と同様に使用者が広い権限をもっともいえそうですが、裁判例の多くは、基本給(職務給)が引き下げられる事態が生じていることに着目して、それを正当化するだけの合理的理由を要求するなど、やや厳しい態度をとっています。


日本の企業においては、適材適所の配置、能力開発、経営不振時の雇用維持策など様々な目的により、配置転換(職務内容の変更)や転勤(勤務地の変更)が行われています。以上の配置転換と転勤をまとめて配転と呼びます。配転については、法律上、使用者が労働者に対して一方的に配転を命ずることができるか、労働者は配転命令を断ることができるかが問題になります。この点については、労働契約があれば当然に配転命令を発することができるという説(包括的合意説)と、就業規則上の規定なども含めて労働契約上の根拠を要するという説(契約説)とが対立していますが、実際には次の例のように就業規則に規定があるのが通常ですので、あまり差はありません。


そこで、配転命令をめぐっては、それがいかなる限界をもつかが問題になります。たとえば、特殊な職種の場合は、職種を限定するという合意があったとして、その職種を超える配転命令は発することができないとされることがしばしばあります。看護師やアナウンサーがその典型例と考えられてきましたが、最近では、キャリアの後期において配転命令が認められた例(たとえば、アナウンサーが番組編成局に配転を命じられた場合)もあります。また、勤務地を限定する合意があった場合も、それを超える配転命令は出せません。兼業農家の現地採用従業員などがその例です。大学卒のホワイトカラー事務職の場合は、職種限定の合意も勤務地限定の合意も認められる可能性は少ないといえますが、最近では、勤務地限定総合職などの雇用形態も増えつつありますし、スペシャリストでは職種限定採用の例もみられます。


実際に配転命令の限界をめぐって争われることが多いのは、配転命令権の行使が権利濫用に当たるかどうかです(労働契約法では、三条五項の権利濫用禁止の規定が根拠になります)。最高裁判例は、この点について、使用者は配転命令権の行使にあたって広い裁量をもち、業務上の必要性がない場合や、業務上の必要性があっても、実際には不当な動機・目的による場合、あるいは、労働者に通常受忍できる限度を超える不利益を与える場合でなければ、権利濫用にはならないと述べています。従来の判例は、配転命令権の濫用の判断にあたってはかなり抑制的な態度を示しており、配偶者の仕事の関係で転勤をすると単身赴任となってしまう場合でも、労働者にとっては通常受忍できる不利益にとどまるとして、権利濫用にはならないと判断しています(前掲・東亜ペイント事件)。


もっとも、病気の家族を抱えており、転勤により介護の負担が著しく増えるようなケースでは、配転命令権の濫用と判断されています。育児や介護への配慮は、ワークライフバランスの観点からも求められるため、育児・介護休業法二六条は、使用者に対し、転勤を命ずるにあたっては育児や介護の状況に配慮すべきことを定めています。出向は、中規模以上の企業においてよくみられる人事異動です。配転と異なり、労働契約関係がない企業(出向先) への異動である点に特色があります。出向には、在籍出向と移籍出向(転籍)の二種があり、在籍出向では従来の雇用主(出向元)との労働契約関係が出向後も継続するのに対し、転籍の場合は従来の雇用主との労働契約関係は終了します。以下では、単に出向という場合は在籍出向を指します。


「配転命令権」行使の有効性判断が必要
人事異動に応じず、従来の職場に出勤する社員への対応


配転命令の拒否
配置転換、いわゆる配転とは、同一企業内で、従業員の職務内容または勤務場所を変更する人事異動をいいます。








— posted by wgft at 01:22 pm