営業現場での新人教育

「私か社内失業したのは、新卒で入社して研修が終わって、その直後だったから2007年の7月くらいから。私はルート営業として採用されました。ルート営業っていうのは、元々いるお客さんからどう注文を取っていくかっていうのが仕事なんですね。新規開拓は基本的にはしないんです。仕事の発注も、大体いつも決まったお客さんから決まった量がくるんですね。だから付いた先輩がどれだけお客さんを抱えてるか、どれだけ自分に引き継ぎしてくれるかで、自分の仕事量とか売上が大体決まっちゃう」「私か付いた50代後半の課長は、お客さんをほぼ持っていない人だったんですよ。すごく仲よくしている出版社のお客さんが一人だけいて、その人のところに課長と私の二人で、月曜日から金曜日まで毎日行ってるような状態でした。

たくさん仕事を抱えてるお客さんだったので、その方が忙しいときは挨拶だけして帰ります。相手に余裕があるときは、喫煙スペースで2~3時間おしゃべりしてましたね。仕事の話もしてましたけど、なんでもない雑談も多かったですね。課長は釣りが趣味で、噂では釣った魚の魚拓が部屋にずら1つと並んでるらしいんです。そういう趣味の話とかを二人で話していて。私は付いていけなくて、隅っこのほうで小さくなってました」どうも課長とお客さんは趣味の話で意気投合しており、それが縁で仕事を受注できていたようだ。しかし既存の顧客を回ることで売上を上げるルート営業にもかかわらず、お客さんが一人しかいない。つまり課長自身、仕事をほとんど持だない窓際族だったのである。そんな状態では田村さんに引き継ぐ仕事などあろうはずもない。そんな日々が1年ほど続いたという。

上司が部下を実際の営業活動に連れて行くことを同行営業と言う。営業のノウハウは座学では伝わりにくいため、営業現場での新人教育は、まず部下を同行させることで行う場合が多い。実際の商談の様子を見せたり、折衝のテクニックを学ばせ、その中で徐々に社会人としての対人マナーや、仕事の全体的な流れを教えていくわけだ。つまり同行は新人教育において、最初の一歩でつまずかせないための極めて重要な行為なのである。しかし「そんな感じだから、営業もすぐ終わっちゃう。でも会社に戻ると、同僚は営業で外に出ているので、職場にいるのは部長と課長と私だけ。すごく目立つし、デスクに30分も座ってると『なんでお前座ってるんだよ。外行けよ。営業なんだから』つて部長からプレッシャーをかけられるんです。しかも部長がくると、課長はぴゅ1んとタバコを吸いに喫煙所に行っちゃう。社内はシーンと音が聞こえるぐらい静かで、気まずかったです」。

この課長からは、教育しようという意図が感じられない。現場で営業トークをさせてみて問題点を挙げるなり、自分が営業している様子を見せて勉強させるなり、やれることはたくさんあるはずだ。しかし教育どころか、営業はただ雑談に付き合わせるだけ。会社に戻ったところでフィードバックされることもなく、それどころかなんの指示もない。新卒入社にもかかわらず、完全に放置されてしまったわけだ。「一番辛かったのは、毎朝の朝礼ですね。どこに行ったとか、営業の成果だとかを発表しなきやいけないんですけど、なんせ発表するものがなにもないですから。最初の頃は課長もかばってくれたんですけど、どんどん冷たくなって助けてくれなくなりました。部長からは毎日のように『営業は仕事を取ってきてなんぼなんだからな。サボつてんじゃねーのか?』って言われたり」。

右記の発言からも感じられるように、この部長にも問題がある。ルート営業で仕事のない課長に同行させていたら、仕事を取ってこれないのは当たり前。それでいて具体的な指示はなく、やり方を変えさせるなり、他の上司に付けるなりの代替案も示さずに、入社3ヵ月の新人社員に任せっぱなしにしておいて「サボつてんじゃねーのか?」とはあんまりだ。そもそも部長は、課長に仕事がないことを把握していたのだろうか?「うちの部長は、一日中机に座って居眠りしてました。誰かの嫌がらせで、デスクにガムの包み紙を置かれたりするぐらい。「なにか書いてるな」と思って覗き込むと、紙にただ丸をいっぱい書いてたりだとか。


— posted by wgft at 09:40 am