金融政策の目的は物価の安定

いくら推計式があっても、それを機械的に使って百パーセント完全ということはありません。微妙なアートの部分は存在します。ただ、その「アート」の部分も経済分析が土台になることはいうまでもありません。二〇〇六年末の月例経済報告で「政府・日本銀行は、マクロ経済運営に関する基本的視点を共有し」という文章が挿入されました。それならば、共有されている「マクロ経済運営に関する基本的視点」を数量化すべきです。それが曖昧なために、百家争鳴の議論がわきあがり、マーケットが影響を受けるのです。「フィナンシヤルータイムズ」紙社説が日本へ提言しているインフレ目標は、目標を数量的に明確にし、その一方で、金融当局がその達成のために独立して金融政策手段を実施できるというものです。

本当の日銀の独立性を確保するなら、ただちに採用すべきでしょう。そうすれば、日銀の地ならしも不必要になり、マーケットも余計な騒動に巻き込まれなくなります。ただ、この期に及んでも、インフレ目標がなかったほうがよかったという意見が日銀内にあります。○八年の中ごろに、エネルギー・資源関係の一部の価格が上がったとき、「インフレ目標を厳格に適用するなら、引き締めをしなければいけないが、引き締めは望ましくない。だからインフレ目標は余計な政策だ」という論調が一部にありました。そのような心配は、目標を設定すれば、まず不要です。ただし、いまの日銀のようなコアCPIの目標ではダメでしょう。

一言いっておきますと、インフレ目標を嫌う人は、結果責任をとりたくない日銀役人か、日銀役人は全知全能なので縛りは不要という前提の人だけです。インフレ目標はそんなに融通の利かない政策ではありません。中央銀行に説明責任をもたせるものです。もし、形式的に目標をはみ出ても、説明すればいいだけです。何をそんなにいやがるのでしょうか?インフレ目標は「制約された裁量性」ともいわれています。日銀は、責任も制約もない「完全な裁量性」を求めているようです。この章では、金融政策と株価の関係をみていきたいと思います。まずは、ここ最近の金融引き締めの株価への影響です。ここまで読んできた方は、どういうケースで中央銀行が金融引き締めを行うのか、だいたいわかっているでしょう。

金融政策の目的は物価の安定ですから、景気が過熱してインフレ懸念が出てきたときに利上げをして、沈静化をはかります。日本とアメリカ以外の先進国は、インフレ目標というものが明確にあり、物価上昇率(CPI)が目標を超えてはみ出すようになったら、金融引き締めを行います。株価は経済を映す鏡だとよくいわれます。また、実体経済に影響を与えるまでに一~二年のタイムラグがある金融政策と株価には直接的な関係はないという意見もよく聞きます。実際のところどうなのか、みていきましょう。

二〇〇六年三月九日、日銀が量的緩和を解除しました。同日の午後二時すぎにNHKテレビが異例のニュース速報を出すなど、この日はこのニュースでもちきりでした。ただ、金融政策が、中央銀行総裁会見の前にテレビ報道されることには、大きな違和感があったことは否めません。この量的緩和政策が導入されたのは、さかのぼること五年の二〇〇一年三月一九日でした。その導入は、二〇〇〇年八月一一日に行われたゼロ金利解除という「金融政策の失敗」に起因しているのは、すでに触れたとおりです。


— posted by wgft at 06:25 pm